esehara
Japan
 
 
レビュー欄は俺の日記帳ではない
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レビューショーケース
7.9 時間プレイ
郊外版・ぼくのなつやすみ

幼年期の頃、俺の周囲には大きいTSUTAYAと、その近くにゲームセンターがあった。一階のガラス張りで見える場所には景品ゲームが置いてあり、奥にはコインゲームがある。二階はアーケードコーナーだ。景品コーナーには、大きなプリッツだとか、あるいはよくわからない外見だけキラキラの腕時計だとか、元ネタを知らないタオルとかがあった。俺は少しのゲームをやっては、帰り道にCDを借りてMDに録音しなおしていたことを覚えている。

アメリカのアーケードゲームにどのような歴史があるかは知らない。例えば、本作のテーマの中心となっている、ゲームでスコアを叩き出した褒美としてチケットを貰い、景品と交換するといったアーケード文化がどういうものかはわからない。そもそもアメリカなんて行ったことはない。だから、本来はこのゲームセンターに懐かしさを覚える理由は無いはずだ。

しかし、にも関わらず……サバイバルモードをやってみたところ、その雰囲気は俺が生まれ育った郊外の雰囲気と驚くほど似ていた。妙に寂れているのに、派手な外見のゲームセンター。その割にはジャイアントというほどでもなく、ちょっと育ったガキ大将くらいの大きさしかない。ショッピングセンターには、子供を少しだけおとなしくさせるためのゲームが置いてある。俺のときはジャンケンメダルマシーンだったように思う。

ゲームの「リアリティ」については諸説様々あるだろう。美しくモデリングされた風景であるとか、あるいは優雅に動く動物だとか、あるいは周囲を舞う木の葉だとか。このゲームの開発は個人でおこなれているので、そういったものは一切存在しない。だが、それでもこのゲームには記憶を生々しく喚起させるものがある……。それはアメリカだとか全く関係がない……。

例えば、ゲームセンターで、ひとしきり遊んだあとに、ロボットたちがエアホッケーに興じているのを観戦したりして時間を潰したり、あるいはゲームセンターの帰り道、門限ギリギリで、自転車で如何に急カーブを曲がるかに挑戦して派手にずっこけたり、あるいは明日派手に遊び回るために、アルバイトを一日かけてこなしたり、遠くのゲームセンターの帰り道、バスの窓から夕日に照らされる遊園地の横顔を見たり……。

他のレビューからになってしまうが、本作のサバイバルモードは、「少ないおこづかいをやりくりし、どのゲームをプレイするかを真剣に考える『ゲーセン少年シミュレーター』である」としてプレイするのが良いように思う。このゲームでは、ゲームセンターの景品を売りさばく事ができるのだが、「景品を如何に稼ぎ、売りさばくか」といったような、効率性であるとか、そういうものを追い求めてしまうのはゲーマーの性だが、それとは無関係にここにあるのは懐かしいような、気恥ずかしいようなノスタルジーであり、それを味わいながらフィールドを散策するのがいいのだと思う。

このゲームは自分が思うところの「ぼくのなつやすみ」に近い。しかも、幼馴染も優しいおばあちゃんもいない、何かあるようでなにもない、特にいうべきことのないなつやすみ。我々は「ノスタルジーといえば田舎である」という、インスタントな価値観に触れすぎてしまっている。それはコンビニで売ってある「おふくろの味」くらい作り物すぎる。

ここにはもう一つのなつやすみがある。遊びたければちょっとしたお手伝いをしておこずかいを貰い、バカだから貯めるなんてことをせずに、全額ぶっこんで、こんなことなら最新コミックでも買うべきだったと後悔するような、そういったくだらないのなつやすみ。告白する美少女も、何やら気の合う同級生も存在しない。遊園地に一人で行って、レールの錆びついたローラーコースターを眺めるような、そんな寂しいなつやすみ。

当時は灰色だったかもしれないが、しかし今になって思えば全然カラフルだった。なにせ、Steamで悲壮な痛いレビューを延々と語っているよりも、何気ないこんな単純なゲームで面白がっていたのだし、本人自身にも可能性はあったのだから。それはこの若くて積極的に更新が積み重ねられているゲームほど、希望があったのだ……。

優雅で感傷的なゲームセンター

恐らく、個人のインディーズゲームが有数のチーム開発のゲームに対して持ちえる強みというのは、作品性であり、文学性であると言えるとするならば、このゲームは立派にそのハードルを飛び越えている。

例えば、草刈りのバイト先に行くとする。すると、人懐っこい犬がかけよっている。その犬と、仕事そっちのけで犬とボールで遊ぶなんてことだって出来る。そういう明らかに余計だが、しかしそのゲームが持ちうる本質にふれる細部というのが、恐らく「ゲームの文学性」というものだろう。『The Coin Game』っていうアメリカ文学小説ありそうだし……。

ここには明らかにちょっとシニカルな愛が存在している。奇妙な外見のロボットたち、安っぽくポップするフォント、微妙に欲しくない景品……。それらは決して他のプロダクトに比類できるほど完成されたものではなく、不格好ではある。だが、それは何処か温かみと人間味があるもので、好きになれる類のものだ。

そして、本来こんな真面目に語るゲームではないこともわかっている。

私達がやるべきことは、子供の頃に戻って、ただくだらない景品のために、目の前の機械に数ドルをぶちこんで笑ったり、舌打ちしたりすればいいだけなのだ。ただ、それだけで十分なのだ。
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Ryusan 2021年1月29日 0時48分 
フォロー機能がなさそうだったのでフレンド申請させていただきました。承認ありがとうございます。一語一句腑に落ちるようなレビューに詩を見ました。今後ともよろしくお願いします。:crimzonstar:
Tama 2020年11月21日 1時06分 
良いレビューを書かれてるな~と思い申請させていただきました。フレンド承認ありがとうございます!以後よろしくおねがいします:Dragonia_expression2:
たべごろ 2020年8月3日 6時40分 
承認ありがとうございます。よろしくお願いいたします
er34 2019年4月20日 21時26分 
フレンド承認ありがとうございました。説得力のあるレビューに引き寄せられてやってきましたw今後共よろしくお願いします!
ナマケモノ 2018年9月12日 2時34分 
eseharaさんのレビューでよくゲームを買うか買わないか決めるくらいレビュー楽しくて好きです。いつもありがとうございます!!!!
religion 2018年7月28日 20時13分 
Best Heister 10/10