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Posted: Aug 12, 2022 @ 4:04am
Updated: Aug 12, 2022 @ 7:34pm

軽いノリのファンタジー異世界メシ一発ネタなコメディテイストのアクションゲームかと思いきや、想像を遥かに上回る壮大な世界設定と味わい深く謎に満ちたシナリオ、魅力的でセンスのあるセリフ回し、自由度の高いビルドの2Dアクションが詰め込まれた非常に完成度が高くオリジナリティに溢れた意欲作だった。
特筆すべきは軽薄なJRPG風ファンタジーと見せかけて、ポストアポカリプスとディストピアSFとパニックホラーとコズミックホラーに多元宇宙論や異星への植民といったSF・ファンタジー要素がこれでもかと混ぜ込まれた盛り盛りの設定と、それらが見事の調和し二転三転しながらグイグイ引き込むダイナミックな物語だ。「もうそろそろクライマックスかな?」と思わせてからのどんでん返しが一度ならず繰り返さる。それらがキュートでシュールなキャラクター達の軽快で皮肉の利いたコメディテイストのセリフでとてもテンポ良く展開される。クリアまでずっと刺激に満ちた、いいゲーム体験だった。


このゲームを始めるとき、物語や世界設定の個性・魅力には大して期待をしていなかった。ダンジョン探索してドラゴンやスライムを殺して料理する、もはや近年そう珍しい設定でもなくなったJRPG風のグルメファンタジーのノリなのだろうと。
しかしステージを進めていくごとに、どうやらこのダンジョンは巨大なシェルターの中であることが判りはじめる。ところどころ強圧的な政府による苛烈な統治を思わせる遺構があり、どうやら人類は滅び去りその後に魔物がうろつき回るようになったことが察せられる。更に探索を進め“森の王”なる魔物の王を倒しひと段落かと思いきや、やっとここでこの世界の詳しいあらましが見えてくる。人類がシェルターに逃げ込んだ経緯は突如自我に目覚めた太陽が太陽系を捨てて去ったことで太陽系が崩壊、熱を失った地球で人類文明を存続させるべく地下シェルターに逃げ込み、ギリギリの状態で人類を存続させるコミュニティ運営をしながら、移住可能な惑星への転移計画が進められる如何にもSFチックな設定がつまびらかにされる。そんなシェルターのコミュニティが崩壊したきっかけが政府研究所発のパンデミックで、人間を飲み込んで腐った肉の化け物にするおぞましいB.O.W的な異形と戦うことになる。それがただのバイオハザードではなく、どうやら多元宇宙の超越的存在が世界救済を目的に侵略してきたものらしく、その脅威に対処しながらスターゲートを目指すとシェルター地下には数百年規模で稼働する人間電池という非人道的マトリックスのようなおぞましい施設が登場する…と、ストアページの作品概要とプレイ開始1時間から想像もつかないハイカロリーな急展開に次ぐ急展開がプレイヤーを待ち受けている。
こんなに盛りに盛りまくった設定にも関わらず、非常に無駄がなく美しいストーリーラインを形成し、それが茶目っ気たっぷりもキュートなキャラクターと端的で印象的なセリフ、そしてゲームに一貫する「料理して食事をする、引いては人間としての幸福」というテーマが描かれ、しっかりまとまっているのは本当に驚くばかりだ。

人間の滅び去ったコミュニティで、人間としての肉体を失ったシマーやグリルやスケルトン、自我に目覚めた植物たち、かつての支配者層やおおいなる意志に布教された存在によって語られる「人生の意味」「幸福論」はどれも力強い主張と人類史への皮肉に彩られており、決して表面的ではない。
主人公勢が安っぽい善玉でもなければ、苛烈な支配を強いたかつての政府ですら安易な悪として描かれておらず、しかしいずれも美化されていない。そこにあるのはむき出しの生への欲望や幸福への強い衝動であり、追い詰められた状況において目前の課題に必死に取り込む様であり、そこには絶望的な状況で必死にあがく生あるものの矜持のようなものが感じることができる。(そしてそれは往々にして狂気を孕むものなのだ)
クトゥルフ的な人類を滅ぼす存在とその信者の言動ですらロジックが通った「一理ある」ものとして受け取られるこのシナリオの受容性の多様さは、実はあらゆるゲームの中でもなかなか稀有なものではなかろうか?

そんな深遠なシナリオや設定もありつつ、セリフの応酬やフレーバーテキストやビジュアルは軽快で遊びに満ちている。シマー達が仲間と叩き合う青春時代の思い出やアニメゲームの軽口は、人類滅亡後の世界であってもマイペースで日常感に溢れており、それには却って一抹の悲壮感や人類植民の星へ向かう希望も湛えている。最初はブラックジョークのように感じたセリフも、終盤で実は重い意味を持っていたことに気付く…なんて仕掛けもある。(シマーによる過労死した労働者の蘇生など)自我に目覚めた植物モンスター達の懊悩や社会への疑問や怒りは、歴史の中で人類が感じてきたそれを端的かつスピーディーに追体験するようなもので、面白おかしいアイロニーとして楽しむことができる。(火の鳥のナメクジみたいな感じ)
軽快なコメディとかわいいキャラクター、そして深遠な世界観と哲学的な問いや皮肉。このふたつを頻繁に行き来する奇妙なギャップこそが、ダンジョンマンチーズの魅力の根源なのかもしれない。

アクション面もユニークな個性が立っていて面白い。最大の特徴はキャラクタービルドの幅広さで「これが正解」というものもなく、プレイヤー十人十色のスタイルに合わせたビルドが可能になっている。
料理が一時的なバフではなく装備品(あるいはアビリティ)として備わっていて、武器種も短剣・剣・斧・槍・鎌・弓・魔法・銃・サブと豊富だし(いずれもがしっかり性格付けされており単純な上位互換下位互換にならない)、その料理と武器のシナジーでよってキャラクターに個性付けがされてプレイヤーの思う通りの戦術で戦うことができる。後半のボスは強力でトライ&エラーが求められがちで(特に腐ったバナナのC-04は強かった…)戦術の見直しと試行を繰り返すとなんとか勝てるバランスも楽しい。
終盤でこそバランス崩壊させる強力な料理とそれに噛み合う武装が出てくるが、それでもプレイヤーごとに個別の「ぼくのかんがえたさいきょうの装備」があるはずだ。
戦闘はスピーディーで大量の敵とザクザク切り結びながら敵の攻撃を回避・防御・突破するDeadCellを大味にしたようなプレイ感で、油断するとすぐ死ぬ敵の火力になっており一定の緊張感は保たれている。一方、道中のセーブポイントは豊富に設けられていてミスによるストレスも殆どない。主人公もゾンビなのでデスペナもない。元々死体なのだからあるはずがない。
敵はわちゃわちゃ出てくるし、ボスは発狂ポイントも設けられており全体通して攻撃は苛烈。弾幕STGのようなド派手な演出もしばしばで、それを無敵ローリングや盾で強引に切り開いていく。(言い方を変えれば多少雑な操作でも避けられる)
アクション面の不満があるとすれば、コントローラー設定の自由度がなく左スティックに移動とエイムがまとめられてるので「移動しながら狙う」が一切できずエイム武器が役に立たなかった。エイムは右スティックでもできるようにしないと近接武器一択だろう。

マップは比較的素直で、隠し通路が非常にわかりやすい。アイテムコンプリートにも苦労しない。即死トラップがほぼなく、ダメージトラップは盾で防げるので2Dアクションのマップ攻略の緊張感はほぼなかった。敵を切り結ぶのこそ楽しかったが、マップデザイン自体はやや退屈だ。
背景や小物の意匠はごっちゃ煮の世界観にあわせてころころと変わって面白い。クトゥルフ的な怪しい異形が天に祈りをささげる地獄のようなマップがとてもカッコよくて好き。


多様性のある価値観に彩られたシナリオ、それを無理なくまとめる清々しい友情や生への渇望、人生や生命の価値と意義への問い掛け、そして料理して食べることの幸福感。言葉にすると平凡かもしれないが、しかしこれほどまでのゴチャついたオリジナルな世界観を、ジェットコースターのような素晴らしい物語の緩急と先を読ませない展開で、食い足りなさを感じることもなくエンディングまで駆け抜ける総合的なエンターテインメント作品としてのバランスはまさしく非凡なものである。
パッと見が一発ネタの平凡なファンタジーゲームなので、どうか本作が誤解されずに評価され、このクリエイターが続編を創るチャンスに恵まれることを切に願っている。


その他細かい感想
・中華風の意匠も良いアクセントになっている。フードトラックや祠など
・装備と食事で見た目が変わるのでどんどん異形のキメラめいたキョンシーになっていく…
・シマーとグリルの顔芸が可愛い。溶けたナメクジ(あるいはミーティ)になるのが可愛い
・彗星飛来で人類が魔法に目覚め、第三次世界大戦が起こる素敵な未来
・最初な魔物のゲテモノ料理、ついには機械まで食べさせらるようになり、でも終盤は普通の料理に帰結していく料理のバリエーションも素敵。死霊シマーもキョンシー主人公も味を感じない。死んでるので当然である。
・高速で人類のコミュニティのジレンマを体験する植物
・グリルゲロソード+盾+スリップダメージ付与+回復が鉄板に強い。ゲロソードの連続斬りと異常状態付与の相性が良好。
ラスボス前の共同料理はアツい。ちゃんと料理に帰結させる良いラスト
・空中ダッシュのアップグレードに肛門を改造されるゲームが他にあっただろうか?
・「ばらばらに切り刻まれてその間に移動させられる」ファストトラベルをするゲームが他にあっただろうか!?
・エンディングの大団円に至るまでのハラハラ感もカタルシスも心地よい
・SFらしい謎の残し方も良い塩梅。主人公のゾンビの存在や目的は明確には明示されない。(大統領の息子で、シマー達の屋台の常連客でしかなく、最後に人類を救う為に自分の存在自体をすべての記録・記憶から抹消させゾンビになる術を結構したことまではわかる。最後までその存在はプレイヤー以外には明かされないもの悲しさも良いものだ)
・「ダンジョンにも普通な植物がいっぱいいるけど。そのような自我のない植物を使って生贄にすれば多分解決すんじゃないかな?」
・「人類の赤ちゃんも、まだ母体の腹にいる時は喋れない。でも人類はそれを豚のエサにすることがあるのかい?」
・君たちを愛していた太陽より
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