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Posted: Feb 23, 2024 @ 1:09am
Updated: Mar 4, 2024 @ 5:02pm

現代のすべてのコンピューターRPGの祖をダンジョンズ・アンド・ドラゴンズに求められるとしたら、Wizardry等から続くRPGの歴史は、その偉大なる源流への回帰と挑戦の軌跡だと言えるのかもしれない。
ケースバイケースで柔軟に自由なロールプレイを許容するTRPGと比較し、ゲーム機でそれを再現することは殆どの側面では制限でしかなかったはずだ。ゲームマスターという"人間性能のAIに相当する装置"が差配するTRPGに、あらゆるアプローチでロールプレイ体験の質を向上させるハードとソフトの進化と工夫の系譜は、数多に枝分かれして素晴らしい進歩を遂げていても尚、まだ取れる選択肢の可能性と柔軟性という点においては及んでおらず道半ばではなかろうか。
そんな深甚なるRPGの歴史において『Baldur's Gate3』はひとつのマイルストーンになるであろうことは間違いないだろう。


TRPGのロールプレイの許容性を「自由度」とした場合、空間的な自由度やキャラクターカスタマイズの幅広さならば『Skyrim』『Witcher3』のようなAAA級オープンワールドRPGが領域を拡張し続けている。だがBaldur's Gateの神髄はそういった種類の自由度ではなく、驚異的な「クエスト攻略アプローチの多様さ」に他ならない。
数多くのクエストの解決手段と手順に驚くべき多様な行動が許容され、しかもその許容とは「それができる」というだけではなく、「それを世界が受け入れて世界と物語を動かすことができる」ほどの力を持っている。それはロールプレイの許容度の高さに直結し、Skyrimみたいに目に見える範囲のすべての山に登ったり数十カ所の洞窟探索や無限に湧き出る盗賊を殲滅したりはできないものの、アバターを思い通りに動かして、それが仮想世界の人や集団や社会に確かな影響を与えられるという手応えは、「自由闊達で制限のないロールプレイ感」という感触においてオープンワールドRPGに決して劣るものではない。

かような高品質にして稀有なRPGであり、キャラクターの血の通った、まるでその世界の住人のようなロールプレイを許容するがゆえに、その遊び方の作法のようなものがあると感じる。(もちろん、ゲームなど何をどう遊ぼうがプレイヤーの自由ではあるのだが)
例えば、オープンワールドRPGならば、道すがら気になる怪しげな家を見つけたら、なんの理由もなくそのドアを蹴破ったりロックピックして押し入り、探索するのが楽しいだろう。ゲームデザインもむしろそれを誘っているような設計になっている。
だが、リアリティのあるキャラクターのロールプレイを極めた本作においては、その振り舞いもまたリアルに徹することが自然になる。ひとりの冒険者として行動したとき、はたしてなんの関係もない他人の物件のドアを突然蹴破るだろうか? もちろん、バルダーズゲートはそんな無軌道な行為ですら許容してクエストをうまいこと進行させてくれるのだが、どうしても違和感が出てきてしまうのだ。したがって、このゲームらしさを十分に堪能するのであれば、自分が定めた主人公を深く理解し妄想し、ロールプレイに徹することだと思っている。

そんな多彩なロールプレイを受け止めて、シナリオへの様々な影響力を及ぼせる驚異の仕組みにも、代償が存在する。
それは、プレイヤーの振る舞いにゲームを動かす影響力が仕込まれ過ぎているがゆえに、ほんの些細な選択肢にまでそのギミックが仕込まれているのではないかと感じて、時に窮屈な思いをすることだ。選択肢や受け答えにいろんな意味性が込められた結果、逆にプレイヤーの自由きままな選択を制限したり、会話で取れるリアクションを狭めてしまっている。
例えば『Pillars of Eternity』では物語に大きな影響を及ぼすタネがない選択肢が無数にあって、それは一見”無駄なフレーバー選択”に見えるかもしれないが、そんなところにこそロールプレイの楽しさを見出せた。意味もなく悪態をついたり、見返りなしで義心溢れる台詞も吐けた。バルダーズゲートにもそんな無駄や余白がもっとあれば、本当に楽しくて気持ち良いロールプレイが味わえたのではなかろうか。

他にプレイしていて嫌な後味として常に残ったのが、クイックセーブ&ロードの簡便さだ。
確かにTRPGをベースとした“思うがままのロールプレイ”をするうえで、クイックセーブは非常に重要な存在だ。TRPGであればそのシーンや迫られる選択の意図やディティールをゲームマスターに問い正せるが、それができないのであれば「自分の意図や意志に反した/ズレた結果」をやり直すことで軌道修正をすることができるのは快適だった。ロールプレイに浸る上で「そんなつもりじゃなかったのに」という心地で話が進むのは面白くないだろう。
だが、それにしてもあらゆる場面で、あまりにも無制限でカジュアルにセーブとロードができることは緊張感を弛緩させ、逆にプレイヤーに対して「使用の是非」を選ばせるような圧迫感を与えている。ダイスのアトランダム性をドキドキしたい自分は、できる限り安易なセーブをしないように努めていたが、その“セーブ&ロードしないように自制に努める”ことが常に小さなストレスになっていた。たまに甘えてしまうシーンがあったのも、うしろめたさが付きまとう。
これは仕組みが準備されている以上、それを意図的に無視するという行為自体へのストレスである。個人的願望として、もうちょっとだけ、セーブシステムが不便であって欲しかった。

キャラクターはみんな愉快だし、理解できない専門用語がドバドバ出てきても流し読みしながら楽しめる世界設定の芯の強さも魅力的だが、いざゲームを終えて振り返ってみると心に焼き付いたクエストは多くなかったかもしれない。ひとえにその場その場でロールプレイし決断すること自体が楽しいゲームなのかもしれない。

コンピュータRPGがTRPGへと回帰する旅路に、燦然と輝くマイルストーンとして今後も長く記憶されるタイトルになることは想像に難くない。ゲーム領域にもAIによるブレイクスルーの予感が迫る中、この作品がPRG史で語られる1ページになるとして、それをリアルタイムに遊べたことは幸せなことだったと思える。


そのほか細かい感想
・レイゼルちゃんカワイイ。めっちゃ強気なゴリウーかと思いきや、出世願望強めなバリキャリだけど割と繊細なメンタルしててウジウジしながらも頑張っててキュート
・ラファエルかわいい。最終決戦ではターシャの抱腹絶倒から1度も復帰できずに殺されてしまった小物感も良い。本作の悪魔はみな良い味を出している。
・しおらしい女が一人も登場しねえ…
・戦闘バランスは序盤こそシビアに感じたが、スキルが充実して「大休憩は実はデメリットが薄い」と気付いてからは戦闘にキツさを感じることは少なかった。ファイターのゴリ押しがシンプルに強い
・治安の悪さだけでなく倫理化が中世っぽい世界で素敵。基本的人権?なにそれ?
・野営物資の種類の多さが超楽しい。アイテム名「魚」だけでも6種類くらいフレーバーテキストがあるし、ワイン銘柄に至っては10種類以上あるのでは?どれも美味しそう。
・野営がグランピングとまではいかないがすげぇリッチだな
・はじめてバルダーズゲート(3章)に踏み入れた時の感動!生活感マシマシのファンタジーな街は歩き回るだけで楽しい
・クラッチかわいい。クラッチをわしゃわしゃ撫でまわすアスタリオンもかわいい。
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