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Posted: Nov 15, 2014 @ 10:56pm
Updated: Nov 24, 2014 @ 1:19am

「兵士にとって戦争と言えば勝利だが、我々にとっては食べ物を得る事だった」
「地獄を彼らと生き抜いたんだ、寄り添い、生き残る為ならなんでもやった」
「あの日々を忘れる事はできないだろう、戦争の中で目にしたものは君から一生離れる事はないのだから」

上記の台詞はトレーラーからの抜粋だが戦争下でのサバイバルを市民の視点で描いた「This War of Mine」のテーマと世界感を強く物語っている。プレイヤーは紛争地帯となった架空の都市Pogorenで市民グループをマネージメントし生存の為にリソースを集め、略奪者の襲撃にそなえ武装し拠点を強化していくという内容だけ見れば実にオーソドックスなサバイバルゲームだが、このゲームに興味を示した人が気づいたように本質は別にある、それは追って後述したいと思う。

一見わかり辛い戦争状態の在り方
ゲーム内ではラジオ以外からの状況説明がまったくなくそれも断片的であるゆえ、英語に慣れていない方は一口に戦争と言ってもどういった状況なのか想像しにくいと思うが、舞台のモデルとなったのは間違いなく1992年に起こったボスニア・ヘルツェゴビナ紛争におけるサラエヴォである。およそ4年に渡って武力封鎖され市民に多くの死傷者を出したサラエヴォ包囲はゲームの舞台Porogrenの状況と酷似している。気になる方は調べてみるとゲーム世界をより理解出来ると思う。

エモーショナルなサバイバル体験
リソースの消費と供給の分配はかなりきつめに設定されいるため、最初こそ無人の廃墟や他の生存者グループの周辺を安全に周る事も出来るだろうが、一度回収したリソースが復活する事はなく、それだけでは重要な食料は不足し、度重なる略奪者の襲撃により怪我を負った仲間への医薬品は底を付く。疲労困憊でベッドに横たわる仲間達を見て、このままではどうにも成らない事にあなたは気づくだろう。
「そう、やる事はわかっている」
「あの家だ、あの家なら年寄りと、若い男もいたが大した武器は持っていない」
「大丈夫だ、自分ならきっと上手くやれる・・・」
自衛の為だったナイフをカバンに入れる行為は自分にとってとても感情的なものだった、生きるために自身が略奪者になってしまう瞬間だ。略奪者となった者はその一線を越えて尚、自分の行為が精神に重くのしかかり、時にはタバコやお酒で一時的にでも何かを忘れなければ明日に向かえないのだ。もちろん他の生存者と平和的な関係を維持したトレード行為も可能だが、どのプレイヤーにも遅かれ早かれその瞬間は訪れるだろう。まったくなんという世界だろうか。こういった戦争という極限状態の中で生存するという行為を鮮烈に疑似体験出来るのがこのゲームの本質でありテーマだろう。
ただし勘違いして欲しくないのは戦争下での市民に起こりうる略奪行為などをビビットに表現している一方で、この作品は暴力を否定しているわけではない、凄惨な状況に置かれた人々の生存行為を誰も裁けないように、生存者も自信とコミュニティでの葛藤以上に罰せられる事はない。もっと言えば戦争自体への非難めいた批判性すら無いと言える。ややもするとこういったテーマは戦争や暴力行為への安易なアイロニーに満ちた物へと成りえてしまうが、この作品を貫く感情は誰にでも起こりうる悲劇への純粋な悲しみである。そういう意味で紛争状態という難しい題材を邪念なく直球で描ききったこの作品のセンスは賞賛に値する。開発チームはポーランドをベースとしており、最近のウクライナ危機も他人事ではなかっただけにテーマに込めたリアリティは圧倒的である。こういった戦争の捉え方をゲーム内に織り込む事は、日本は勿論北米のゲームクリエイターでは不可能だと断言できる。

優れた背景表現とBGM
ゲーム世界のベースは3Dで作られた人物と建物を横から眺める2Dスクロール画面となっているが、エンピツ斜線を重ねた動く空気の様な独特の背景表現は優れた光源効果と相俟って、美しくまたどこか寂しい。戦時下を生きる人間や荒廃した建物を淡く写し出しゲーム内容と良くマッチしている、特にアコースティックギターがメインとなるBGMとの親和性は高く、生存者の陰影が色濃く表現されている。ラジオでのミュージックチャンネルをBGMとする事もできるが、こちらもクラシックを中心としておりG線上のアリアが流れる室内で近隣から聞こえる銃声や爆音との重奏は余りに切なく、まるで映画の一場面を見ているような気分にさせてくれる。徹底して戦争下の表現を貫く映像と音楽の表現美は見事と言える。

ランダム生産でのリプレイ性
極めてセンセーショナルなテーマと表現のためそちらへ意識を持っていかれるがゲームとしてのシステムもよく出来ており、生存者の固有スキル、リソース収集やランダムイベントにクラフト要素など充分なバリエーションがあるため決して明るくないテーマながらもリプレイして楽しめる内容になっていると感じる。ただし外で出会う他の生存者グループやマップなどはある程度決められたセットとなっていたり、仲間になる生存者のスキルも固定となっているため純粋にランダムなゲーム性を求めるとやや物足りない印象もある。また人間同士のやりとりが中心なことと現実的なクラフト要素はリプレイ毎に大胆な違いがあるわけではなく地味と感じる、率直に言えばゲーム世界のテーマを余り意識しないのであればあえてこの作品を選ぶ必要はないだろう。

雰囲気を重視したゆえの不親切な設計とその弊害
まずチュートリアルがなくゲーム内の行動に対する説明もほとんどない、加えて文字が小さいなど文章でのシステムフォローは最悪の部類。インタラクティブなオブジェクトにはアイコン表記のみとなっていてクラフトやラジオなど直感的に操作出来るデザインは素晴らしいとも思うが、家に設置物が増えてくるとかえってアイコンだらけとなりむしろ雰囲気を壊しているのはどうなのかというマイナス面もある。

総評
多くの戦争をテーマにしたゲームはあったが紛争下での市民視点という切り口とサバイバルを組み合わせたゲーム性はユニークかつ作品テーマと見事に融合しており、「戦争体験」というゲームでは有り触れた言葉が類を見ないほど真に迫っている。ゲームプレイを通して誰もが自分の行為と結果に感情を揺さぶられるのではないだろうか。出来れば生存者のバイオグラフィーやラジオなどの英字情報も読解したうえでゲーム世界を楽しんで欲しい。
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3 Comments
nyon3 [jp] Jul 3, 2016 @ 4:39am 
商業誌に載っていてもおかしくない質のレビューだなにょ。だなにょ
gipsydog Nov 16, 2014 @ 2:16am 
こちらこそ長文のレビューを読んで貰えて嬉しいです、ぜひゲームの方も楽しんでください!
Aonuman Nov 16, 2014 @ 12:29am 
大変参考になるレビューでした。
購入にむけて背中を押していただきました。
素晴らしいレビューをありがとうございます。